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BLOG・BLOG

東杜来のブログです。月に1,2回の更新。

掌編:対話

小説

「どうかな…それ、美味しいかな」
「それって、ビーフシチュー? それとも、このサラダの方?」
「サラダの方かな。ドレッシングの味を変えてみたのだけれど、分かるかなと思って……でも、あぁ、自分で食べてみて気がついたけれども、あんまり印象が変わらないかもなぁ。酢にレモンを足してみたのだけれど、レモンの風味はあまり出てないような気がするんだよね。だから、これ、失敗かもな」
「そう。美味しいからどうでもいいけど」
「美味しいんだけど、アレンジとしては失敗しているような気がする。料理の幅を広げたかったんだけどなぁ」
「レモンを足しただけで、広がる幅ってなに? 料理ってそういうものだったっけ。それよりも、このシチュー、そういえば久しぶりに作ったような気がするんだけど、前は、いつ作ってくれてたっけ。よく覚えてないわ」
「シチュー? え、でも、この間も作ったよ」
「作ってないよ。作ってない。この間には作ってない」
「いやいや、この間、作ったよ」
「この間、っていうほどの最近には食べてない気がする」
「僕の中では、この間なんだけどなぁ。そっちの言ってるこの間が、想像以上に最近すぎる気がする」
「じゃあ、具体的にはいつ作ってくれた?」
「それは……ゴメン。覚えてない。いつも料理作ってると記憶に残らないね」
「いつもは、尻尾が真っ黒に焦げた魚ばっかりだしね」
「それ、まだ根に持ってるの」
「食い物の恨みは恐ろしいの。釣った魚をあんなふうにされるとか、ムカつくでしょう」
「あれは……まあ……あれは、確かに目を離して焦がした僕のせいだから、反論はできないんだけど」
「ま、ともかく、そこは妥協してあげましょう。で、話を戻すけど、シチューの話」
「あれ、シチューの話だったっけ。シチューよりも、元の話があったような」
「え、そうだっけ」
「そうじゃなかったっけ」
「うーん。……まあ、ともかく、レモンを足しただけで料理の幅が広がることはないと思うよ。こういうシチューみたいに、こう、シチュー!ってもののレパートリーを増やさないとダメだと思う」
「あ、そうそう。それが元の話だったんだ」
「あ、そかそか。――で、サラダだけど」
「あ、サラダ。どうかな」
「レモンの風味するけど」
「え、そうかな。しないと思うんだけど」
「するわよ。すっごいする」
「僕の中では、この程度はレモンの風味がするって言わない――」
「そっちの中では、どうだろうが、私の中では――」

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