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東杜来のブログです。月に1,2回の更新。

掌編:離れている

 私の手は、現在、雲の上にある。対して、私の足は椅子の下にある。心は遠い海の向こうにある。頭脳は地中深くに眠っている。耳はビルの屋上にある。目は全てを見渡している。

 手はやがて落ちて、誰かの頭を撫でていた。気味悪がられて、乱雑に道路へと投げ捨てられ、トラックのタイヤに危うく轢かれそうになった。親指とその他四本の指でぺたぺたと、道路の上を逃げていく。ふと、誰かのお尻を触ったらしく、地中深くにある頭脳が目覚めた。椅子の下にある足の裏が、つーっと真っ直ぐに立った。遠い海の向こうから、鼓動がずんと伝わった。女性が大口を開ける。叫んでいるようだが、耳は、ビルの屋上、ビル風の強いびょうびょうという音しか聞こえない。手に痛みが走る。なにかが突き刺さったようだ。椅子の下の足が、どんと跳ねる。心が申し訳無さを思うが、遠すぎてこちらに伝わらない。頭脳が口はどこかと探し始める。いやいや、そもそも体はどこなのだ。

 体、つまり、腕や、腹や、臓腑や、とにかく、体だ。

 腕は……あぁ、なんだ、頭脳と同じ地中にある。腹は海中で沈んでいるようで、魚に食べられそうなのを、必死で、ふとももが防いでいる。腹筋を使って、ウヨウヨと逃げまわる。口は……なんと、まだ空中に浮いているではないか。そうか。

 ところで、体はどこだ。ないな。