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東杜来のブログです。月に1,2回の更新。

小説

掌編:感触

色彩を帯びた音たちに囲まれて、温かい気持ちで眠れ。ときに明るくも暗くも冷たくも熱くも全てを帯びるが、色彩の全てを感じて、明日への夢を見ろ。言語の混じった色を見るべきだ。温度の混じった音を触ってみるべきだ。 例えば、クリノリンだけを付けた少女…

掌編:残念。

犬が駆け寄ってくる。 彼に触ろうとした途端、後ろから、祈祷師が呪文を唱えてしまった。 残念。 犬はゾンビになった。 猫を見かけたので、触ってみようかな。 彼女に触ろうとしてると、背後から、呪術師がおまじないを掛けてしまった。 残念。 猫はゾンビに…

掌編:背中と背骨と眼と眼孔となにかとなにかとなにかとなにかとなにかとなにかとなにかと

背中を埋め込まれたと、君は後悔してゴミ箱を出て行く。 眼孔には、背骨が入っていて、それが絶えず動き回っている。 しまった。 なんてことだ。 もともと、君は背骨のある人だったが、数年前にそれは捨てていた。 捨てた理由は、当然だが、背中なんてものが…

掌編:欠陥品

冷たい指を触れてみる。指紋の微妙な凹凸があり、その指紋は、私の指紋と時折噛み合うような、ズレるようなこそばゆさだった。私は肩を震わせた。手の甲に、ゆっくりと円を描く、真円ではない。幼児が描く撥条のような、曖昧な螺旋を書き付けた。反応はない…

掌編:空

空を掘って、抜け出すことを考えたのはいつのことかよく覚えていない。ともかくとして、その日、僕は空が土塊のように、ベタッとした質感のなにかであることに気づき、そして、長いスコップでコツンと先を啄いてみたりしたのだ。 ボロボロと取れていく空。僕…

掌編:月下

血を吸われていることに気が付いて、僕は目を開ける。彼女がいた。またかと溜息を付く。これで何度目になる。よく覚えていない。ともかくとして、月下、彼女は僕の首筋を噛んでいた。やがて、血を吸っていた彼女は、吸い込まれるように僕の血管の中へと、し…

掌編:名言

これはよく出来ている(――出来てはいない)と画廊(――ここは暗喩である)の絵(――同左)を見て呟く彼(――存在していない、大勢の一人を指した三人称)は、大げさに絵を褒め称える。素晴らしき名言が、飛び交う。大河を渡るような心地を持っている、一つのあ…

掌編:ヌンラシュトリツム

ヌンラシュトリツムについて、語るべきスペースが限られすぎているため、なかなか語られる機会は少ないと見られている、このヌンラシュトリツムは、ヌンラシュトリスムでもなければ、ヌラストーリズムでもなく、ヌンラシュトリツムであり、ヌ・ンラ・シュ・…

掌編:崇めよ、崇めよ

とにかく、仰ぎ見ろと人は言う。なぜ、仰ぎ見るか(――ような信じるようなものをするか)、そこは重要ではない。仰ぎ見ることで救いがあると信じることがなによりも重要で、救われると信じることが核心で、自分を救ってくれる、そんな都合のいいもの(――が、…

掌編:松阪牛背中男

薄暗闇から男がぬぅっと現れた。出で立ちを言えば、中折れ帽にコート、常に濁った瞳で鋭くあたりを見回し、皮肉の上手そうな口が、得意気に折れ曲がっている。葉巻を咥えて、吸う。香りを噛んで、ゆっくりと舌を回す。口から零れた、白い煙は亡霊のように空…

掌編:口論

「あんまり、はしゃいで走り回るのはやめなさい。みっともないわ。ほらほら、あなた、あんまり走り回るものだから、音程が変わってるじゃないの。あなた、キャーッでしょ。キャーッの黄色い悲鳴なのに、ちょっと音程上がって、それじゃどちらかというと、キ…

掌編:トンネルの中は真っ黒

トンネルを抜けると、拔ける前に私はとっくに死んでいた。なぜだろうか。 そうだ。 なぜかと言えば、殺されていたからだ。 殺された理由は、簡単で私が彼の財産を奪ったからである。 いくらほど奪ったかというと10億だ。これほどの大きい金額ならば納得だろ…

掌編:嘘つきは泥棒の始まり

自分を理解してくれる人がきっと世界のどこかにはいて、だからこそ、ニッチな方法論で、これからの世界は自分の収入を得ることが出来る(――嘘つきは泥棒の始まり)のです。 当然ながら、僕はそんなもの信じているはずがない(――嘘つきは泥棒の始まり)のだけ…

掌編:朝

朝起きたときにはもうとっくに飼い犬のボン・ボン・ボンくんが隣の雌犬と盛っていて犬さえ出来てるのになんで僕だけは未だにこうも童貞なんだと悲しみながら顔を洗ってみると鼻から血が出ていることに気が付いてティッシュで何度か拭っているうちに治まった…

掌編:棺

死体が腐らなくて困っていたのだという。某国の話である。そこは基本的に死体は土葬であった。手厚く、丁寧に葬ることが死者への手向けという、国だった。だが、丁寧に葬っていたのがまずかったらしい。無菌状態の棺では、死体が腐らず、次の死体が入れない…

掌編:グラスビュー

見つめるのだ。そっと見つめ続けるのだ。そうして、グラスの向こうにある景色を、与えられるようにではない形で見出すのだ。例えば、色のついた硝子でもいい、真っ黒な烏でもいい、誰かのツマミの唐墨でもいい、色の澱みから上澄み取っただけのような発色を…

掌編:星の下

嚥下したシロップが、喉に引っかかって今もちょっと苦しい。一緒に空を飛んだはずの彼女は、抵抗ないように平然としていて、不公平を味わう。シロップは透明だったと彼女は言う。僕はそうは思わなかったので、とりあえずブルーのようだったと答えた。限りな…

掌編:その名を…

淋しい家に住んでいる。今年も冬を迎えて、ますます厳しい淋しさとなったこの家には、僕以外の誰も住んでは居ない。床がしんとしている。窓から差し込む白い光がありがたい。陽だまりの中に入っていると、体から少しだけ、空白感が抜けていく。温かみのせい…

電子書籍出しました。

大晦日ですね。電子書籍を出しました。 『ゆやれを拾った話』 東来杜著 レッツ、ダウンロード!

電子書籍を出してみた。

正確には、未完の状態だけど、当分、仕上げる気がないので、一章までを公開することにした。 「STARSLAVE」 『STARSLAVE(仮)』 東来杜著 まあ、タイトルに個人的な趣味が出すぎだね。STAR SLAVEで検索したら、たぶん元ネタがすぐに分かると思う。その割に…